スペシャルティコーヒー豆 AKAGAWA

新たな出発(4)

ソフトクリームの悩み

ソフトクリームもモカソフト1種類では、 お客様の

「白いアイス、普通のアイス、バニラはないの?」

要求に応えられない。 したがって、モカソフトもなかなか伸びない。

いつも真向かいの鯛焼き屋さんの、 朝オープンと同時にお客様がみえ、閉店まで売れるのを見ながら、 どうやったらソフトクリームが売れるだろう?と、 日がな、夕方になると頭が痛くなるくらい考える。 長年モカソフトを280円で販売し、 市場で認知されてきたことから抜け出せない。

長崎屋の店内では、フードパークのソフトクリーム、 お茶屋さんの抹茶ソフト、当店のモカソフトと一番の競合商品である。 当店だけが<普通のバニラソフトクリーム>がない。 他の2店とも210円で、当店のモカソフトだけが280円である。

100円のソフトクリームを販売する

鯛焼きがワンコイン 100円で買えて、食べた後の満足感が、商品価値を生み出している。 商品の価値が価格を上回れば、お客様が満足して売れる。 悩みに悩んだ末、100円の普通のアイス<ミルキーソフト>を販売する。 それと同時にモカソフトも200円に値下げし、新たに<ミックスソフト>150円も発売する。

これが大ヒットし、予想以上に売れる。 特に小遣いが厳しい高校生や、お年寄り達に歓迎される。 8月になると一日に300本以上も売れ、冬場の土、日曜日でも150本は売れた。

心の空しさ

しかし、販売して一年近くが経つと、何となく虚しさが心の隅に立ち始める。 こんな事で良いのか? 自分の考えた商品ではなく、 市場に合わせた商品であり、ソフトクリームが100円で買える、ただそれだけで売れる、 この事が心を空しくしている。 それと共に売り上げも下がり始める。

販売して2年目に入った2004年8月いっぱいで、100円の<ミルキーソフト>の販売を中止する。

絶対の自信作バナナソフト

次に販売するソフトクリームは、当店オリジナルの、 何処にも売っていないものを売ろうと決心し、 創作に取り掛かり、<バナナソフト>を編み出す。 これは今までに創った、<豆乳ソフト>、<ミルキーソフト>を上回る自信作で、 家内、パートさん達も、これは売れる、と太鼓判であった。

食べた人たちには大好評であったが、店の前を通る人たちが、

「バナナソフトだって、やだー。」

と話しながら通る。

「バニラソフトはないんですか?」

「当店はバナナ味になります。」

これでお客は帰る。 喫茶のケーキセットには、<バナナソフト>を付けて出すと評判は良い。

<バナナソフト>は美味しいのだから、必ず売れるようになる、と自分に思い込ませ、 5ヶ月間頑張ったが、日増しにソフトクリームの売り上げが減る。 2005年1月いっぱいで販売を中止する。

大衆が求めるものは普通であった

2005年2月からバニラソフト、モカソフト、ミックスソフトの3アイテム各200円でスタートする。 もうソフトクリームで頭を悩ますことは止める。 ソフトクリームは大衆商品であり、市場が要求するものが<普通のソフト>であるならば、 商品の性格上、一般大衆が相手である。 それに対してこだわりや押し付けの商品は無理、 とオープン2年も経ってようやく解かる。 販売して3ヶ月、可もなく不可もなく売れている。 もうソフトクリームで悩むことは、これからよそう。

売れ始めたコーヒー

家内が、

「お父さん、コーヒーはなかなか売れないね。」

と、よく愚痴をこぼす。

「売れるようになるのは3年かかる。」

と、何度答えたことか。 ところがオープン2年目の2004年11月頃から、急に売れ始めた。 ようやく口コミで知られてきたようである。

コーヒーに関しては、一切の妥協はせず、 自分の経験とポリシーをお客様にアピールすることが、 お店の存在価値であると確信する。

値引き販売やチラシ広告は一切やらず、それらに掛かる費用を考えたら、 全てのコーヒーの品質アップの為に回す。 また自分自身が常に、コーヒーという大きな市場に取り残されないよう、意識を持ち、 コーヒーという素晴らしい商品を人生に得たことを感謝したい。

日本スペシャルティコーヒー協会の会員になる

日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が 会員募集すると、直ぐに入会する。 際立つ素晴らしく美味しいコーヒーを売りたい、という私のポリシーを実行するには、 スペシャルティな原料コーヒーの入手が一番の課題である。 それにはコーヒー生産国の情報が欠かせない。 SCAJが主催する各生産国のスペシャルティコーヒーの説明会には全て参加するようにしている。 今ではこれが一番のコーヒー情報源である。

日本バリスタチャンピオンシップ予備選の審査員を経験

サイフォンでコーヒーを抽てる、日本一のチャンピオンを決めるイベントで、 全国からの挑戦者を、日本を4ブロックに分けて予選をする。 その東京会場24名の一次審査の審査員を務める。 当初は自分で挑戦してみようかと考えたが、 審査員の募集があったので、応募してみた。 審査員が決まり、審査員同士の顔合わせと審査基準のすり合わせ、審査内容の説明会に出席し、 新たなサイフォン抽出の技術を学ぶ。 これが営業する上において大変役に立っている。

コーヒーマイスターの資格を取得する

5ヶ月の通信教育で、コーヒーの専門知識を持つプロを育てる、教育プログラムに挑戦する。 コーヒーにまつわる全てのジャンルがあり、 特に歴史問題では、年代や人名を暗記することに苦労する。

例えば、世界で最初のコーヒー店は、いつ、どこで、何という名前でしょうか?  <1554年イスタンブールのカフェ・カーネス>という風に全て暗記である。 ところが55歳の私は、覚えたと思ったらすぐに忘れる。 これには参ったが、筆記試験にパスし、実技も終了し、 【コーヒーマイスター】の資格を取得できた。

コーヒー業界の仲間達の集まりCMC会に積極的に参加する

25年に及ぶコーヒーロースターの経営者達の私的な集まりである、 コーヒーマンクラブCMC会)は、 その名前どおり、最近は、 講師を呼んでスペシャルティコーヒーのカッピングフォームを勉強する機会に恵まれ、 皆一生懸命挑戦している。

スペシャルティコーヒーとは、際立って美味しいコーヒーを指す。 したがって、このコーヒーはどのように旨いのかを評価し、点数で表す、カッピングフォームである。 全部で8項目あり、

  • (1) カップクオリティのきれいさ
  • (2) 甘さ
  • (3) 酸味の特徴
  • (4) 口に含んだ質感
  • (5) 風味特性
  • (6) 後味の印象度
  • (7) バランス
  • (8) 総合評価

と審査するが、特に風味特性の表現方法は、 <花のような、ワインのような、フルーツのような、チョコレートのような等>と表現し、 尚且つ何の花か、白ワインか赤ワインか、何のフルーツか、ダークチョコのようなと、 とても難しいが、スペシャルティコーヒーだからこそ、 何らかの風味特性を表す表現があるはずで、 そこにコーヒーを飲む人が、際立つ美味しさを感じるのである。

Cup of Excellence®(カップ オブ エクセレンス)

以上のような審査基準で、国際審査員によって、 コーヒーがカップ オブ エクセレンス(COE®)の称号を得て、 インターネットオークションで販売される。 とても高値で競り落とされるが、それだけの価値がある。

際立つ美味しさがあり、当店も<カサブランカ、サンファン>を販売し、 とても好評である。 こういう素晴らしく美味しいコーヒーを販売することに、 当店の存在意義があり、私のポリシーでもある。 店名の<スペシャルティコーヒー豆の店 Akagawa に恥じないよう、常に際立つ美味しさのコーヒーを販売し、 コーヒーのことならAkagawaと言われるように、 Akagawaのコーヒーなら間違いない、と信頼されるブランドを目指して、 原料豆の選定に、焙煎に、サイフォン抽出に、接客に、コーヒーの説明に、と邁進する事が、 Akagawaのブランドを確立することと信じる。

終わりに

1年半にわたって書き続けた「コーヒー人生」もこの辺で一旦終わりにさせて頂き、 また数年後、皆様にご報告できるようなお店(人生)になるよう、 頑張りたいと思います。

記:2005年5月


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